大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

意思決定と専門的意見

2015.06.28

20150628これも数日前にtwitterでいただいていたご意見に対しての回答なのですが、私にとってはとても重要な問いかけでもありましたのでこちらに転載させていただきます。

問いの趣旨としては、安保法制の関連で、憲法学者が専門家として意見を述べることと、国会議員が政治的な意思決定を行うことについて、両者の関係をどのように考えるのかという問いかけでした。私の回答は以下です。

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お返事が大変遅くなってしまいました。私が言いたかったことはニコルソン『外交』における外交政策と外交交渉の違いのようなもので、大枠の判断(政策)は国民に選ばれた国会議員がするのだけれども、その政治的判断の過程には技術者の専門的判断が必要という考え方です。このことにはいくつかの前提があって、国会議員が森羅万象すべての政策に通じることは不可能ですから、メタレベルの原則や方針・政策のみを政治的判断としては行い、仔細の実施方法、技術的な問題点等は専門家の判断を参考にすればよいと思うのです。

その場合、専門家は無論狭い専門の枠内で助言をしているに過ぎませんから、大局的な視点に立って、比較考量をする政治的判断が必要になります。なので、政治的判断と専門家の専門的判断は根本的に判断の性質が異なっていると思います。問題はこの先で、じゃあ政治的判断は専門的判断を度外視して良いかっていうとそれは違うと思うのです。政治的判断の役割は複数の専門的判断から何が最善であるのかを判断することであって、自ら疑似専門家的判断をしてはならないと思うのです。

ここで言うと、合憲/違憲の専門的判断を国会議員は尊重して、その上で適切な方法を考えるべきなのです。その意味で専門家の判断というのはまったく特権的なものではありません。しかし、かといって政治的判断でなんでも決めていいわけではなく、政治的判断と専門的判断の境界はきちんと区別すべきなのです。建築士が釘の打ち方にまで文句を言ってはならないというのと似ています。結局、この問題については、政治的判断/専門的判断を混同した議論が非常に多かったように思いました。長くなりましたが以上です。

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と、以上のような回答をさせていただきました。繰り返しになりますが、民意によって選出された国会議員の政治的決定は無論尊重されるべきなのですが、その決定を行う過程で、またその決定を実施する過程で、専門家のテクニカルな見識・知見が求められる場面というのは当然にあります。その場合に、政治的意思決定の領分と専門家の専門的助言の領分は厳格に区別されるべきで、前者が後者に浸食してはならないし、またその逆があってもならないというのが私の主張です。これもまた、重要な問題を改めて考えるとても良い機会となりました。ありがとうございました!


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