大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

間接経費・要望書の件で

2017.05.20

 
間接経費要望書の件で他大学の事務職員の方からメールをいただきました。

私と考え方は異なりますが、しかしこの間接経費の問題に取り組むうえでは避けて通れない重要な論点が含まれているように思いましたので、ご本人の了解のもと個人情報をマスキングして頂いたメールと私の返信を以下に転載いたします。

 
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九州大学 准教授
大賀 哲 先生

お世話になります。●●●大学の●●と申します。●●大学の事務職員になります。

大賀先生の間接経費に関する要望書について拝見いたしました。その中で、気になる点がありメールいたしました。ただ、私は先生のこれまでの活動、ご活躍を全く知りません。大変、失礼ではありますが、特に調べもせず、要望書を読んだ限りでメールをお送りしています。ですので、そういう何もわかっていない者がメールしているということをまずお許しください。

私はこの要望書を河野議員ではなく、全国の国公私立大学長宛として送るべきだと思います。その上で、河野議員には参考として手交すべきものではないかと思います。

以下、理由を述べます。

要望書の間接経費は「研究の生産性向上」という趣旨にたちかえるべきであるというのはそのとおりだと思います。

しかし、現状の間接経費制度の運用を改善することで、先生が要望書で書かれていることのほとんどは解消できます。例えば研究支援者への人件費として使用することは可能です。また、常勤の研究者以外の給与も間接経費を財源として雇用することは可能です(と言い切るにはグレーな部分はありますが、実態としては可能。)。

ですので、先生が指摘する問題点というのは、間接経費制度そのものの問題ではなく、間接経費を配分するマネジメント側の問題につきるのではないかと、思うのです。

つまり、学長達の大学経営の方向性が、「研究者達の研究時間の確保」という観点から行われているのではなく、政策の方向性に即した形で、大学の機能強化という名の元に学内での選択と集中を行っている結果、現状の研究者の多忙が生まれていると思っています。

私の大学では、間接経費は本部が▲割、部局配分が●割です。また、そこからその●割を研究代表者に配分するかどうかは部局に任されています。そのため、部局分の半額を直接研究代表者に返す場合もありますし、大学から当初配当される基盤的経費を研究者に大目に渡し、間接経費を部局の光熱水料金等にあてる等、部局内での間接経費の配分は異なります。そして、もちろんですが、本部に取られた間接経費を財源として、学内での選択と集中は進んでおります。

私は、この流れを政策的な流れを受けての個々の大学が政府受けする最善のマネジメントをしてきた結果ではあると思います。しかし、この流れは非常におかしいので、マネジメント層の意識改革が必要だと感じています。ただそれは、国や政治といった権力の介入によって行われるべきものではなく、大学人らしいある意味迂遠で、しち面倒くさい議論を積み上げることで、自浄的に変化していかなくてはならないと思っています。

ですが、私は今回の要望書というのは、学長達のマネジメントが失敗していることを、政府の介入によって解消しようとするように感じています。ですので、私の意見としては、河野議員宛のものではなく、全国の国公私立大学長宛にするのが筋ではないかと思った次第です。

長文、失礼いたします。

今後ともよろしくお願いいたします。

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続きまして、私の返信がこちら。
 
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●●●大学●●さま

九州大学の大賀と申します。要望書に関してご意見をいただき誠に有難うございます。

要望書は河野議員ではなく全国の国公私立大学長宛として送るべきだというご意見、承りました。

この点に関して私見を述べさせていただきます。要望書6頁注4で示しておりますように、共通指針は別表1で「上記以外であっても、競争的資金を獲得した研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能の向上に活用するために必要となる経費などで、研究機関の長が必要な経費と判断した場合、執行することは可能である。」と規定しておりますので、私たちの要望2は現行でも運用可能ということになります(無論、多少グレーな部分はありますが…)。

しかしながら、間接経費が「研究開発環境の改善」のために使用されるという保証はなく、「競争的資金を獲得した研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能の向上に活用することにより、研究機関間の競争を促し、研究の質を高める」という趣旨が有名無実化しているような現状もありますので、公的研究費の配分機関を監督する立場にある国が間接経費のあり方、趣旨、使途などを今一度明確化する必要があると考えています。

仮にこの要望が全面的に受け入れられれば、共通指針が改正されるということになります(満額回答が得られる可能性は低いと思いますが、仮にそうなったと仮定します)。その場合、共通指針は一定比率を研究者の研究開発環境の改善に使うことを定め、その使途を例示する(例示の幅が多少広がる)ということになります。ただ、そうであったとしても、具体的にどのような比率でどのような使途に間接経費を使うのかという判断は各大学が行うことになりますので(これは従来の競争的資金の運用と同じです)、その意味で「学長達のマネジメントが失敗していることを、政府の介入によって解消しようとする」ことにはならないと考えています。つまり、国はガイドラインとしての共通指針を改正することになりますが、それを受けて今後間接経費を大学のなかでどのように運用していくか(たとえば半分くらい研究環境の改善に使えるところもあれば、1割程度のところもあると思いますが)ということを各大学で議論するということになるのだと思っています。

いずれにせよ、研究生産性向上という視点からマネジメントや研究戦略を見直さなければならないというのはまさに仰る通りだと思います。現状では共通指針そのものが大学ごとの裁量をかなり広く認めてしまっているので、少なくとも「研究生産性向上」というベースラインを維持するうえでも国が最低限のガイドライン(この場合は共通指針における使途の明確化ということになりますが)を示すべきであると考えております。勿論、大学ごとに個別具体的な状況は異なりますので、共通指針で最低限の枠を定め、それを具体的にどのような比率でどのように行うかは各大学の判断で良いというのが私の考えになります。共通指針を決めたうえで各大学が状況に応じた戦略・戦術を選択すれば良いので、それは「政府の介入」ということにはならないと考えています。

お答えとしては以上となります。ご指摘いただいた点は非常に重要な論点で、また間接経費の問題を考えていく上でも避けて通れないものであると認識しています。もし差支えなければ、私のブログで●●さまから頂いたメールと私の回答を紹介させていただいても宜しいでしょうか(勿論、お名前・所属部署等はマスキングいたします)。もしご対応可能であれば、ご検討いただければ幸いです。

いずれに致しましても、貴重なご意見をいただき考えを深めるとても良い機会となりました。深く感謝申し上げます。引き続き何卒宜しくお願い申し上げます。

大賀哲
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この後も大変ご丁寧な返信をいただきました(多謝)。

結局のところ、時間はかかるかもしれないけれども各大学でまずは議論して適切な運用方法を形作っていくか、国がガイドラインを定めてそれに基づいて各大学が議論したほうが良いかという考え方の違いではないかと思います(私は後者の立場ですが、前者の立場ももちろん理解できます)。

私は間接経費の問題は、大学のいろいろな制度疲労が象徴的に現れている事例ではないかと思っていますが、肯定・否定を問わず様々な方からリアクションがありますので、それだけでも今回の要望書を公表してみて良かったと思っています。引き続き議論を続けていければ幸いです。
 


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