大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

希望の党とか

2017.09.30

希望の党とか
 
民進党が事実上解党し、「希望の党」に一本化するらしい―但し政党助成金の関係で書類上政党としての民進党は残る―。というわけで、大きくは自公 vs 希望・民進 vs 共産・社民という戦いになりそうである。その上で、「希望の党」の党綱領なるものを見ると、政策的にはほぼ何も言ってないに等しいのだが、方向性としては「寛容な改革保守政党を目指す」ということを打ち出している。理念的には全方位包摂型。これをちょっと考えてみたい。

希望サイドからこの状況を考えてみると、例えば保守(自公)/超保守(希望)/リベラル野党連合(民進・自由・社民・共産)というふうに思想的にすっきりすると与党(自公)には絶対勝てない。野党が大同団結しないと勝負にならない。しかも希望の党は全国レベルの選挙組織なんて持ってないから、希望としては民進党を取り込むことに意義がある。そうすると必然的にリベラルを含めた全方位包摂型になる。

逆に、希望サイドが全方位型の方針を取らずに一部の報道に表れているような小池氏周辺のやや超保守的(例えば核武装も辞さないという立場)を打ち出すとどうなるか?この構図はむしろ自民にとっては「楽勝」な構図で、要するに極右(希望)と極左(共産)というレッテル貼り(言説形成)をして、真ん中(中道路線)のボリュームゾーンを狙えば良いということになる。つまり、希望が「超保守」「極右」というイデオロギーに走ると自公はやや中道リベラル寄りの選挙公約・選挙言説をあげてくるだけなので、そうなると自公に勝利することは絶望的になる。

そもそも自民が右傾化した背景にはリベラル=民主党政権との差別化という戦略があったわけだから(中北浩爾「自民党の右傾化―その原因を分析する」塚田穂高編『日本の右傾化』(2017年、筑摩書房)、希望が超保守・極右的なイデオロギーを掲げてきたら今度は自民が相対的に左向きの政策・理念を掲げてくる。希望サイドとしてはそれをさせないために、結局党綱領はイデオロギー色を薄くして全方位でリベラルも包摂可能なものとせざるをえない。

加えて、上述のように希望の党には地方組織がないので民進党組織をなんとしても取り込みたい。そこで民進党組織を取り込むためにも、リベラル寄りの党綱領になる。したがって現実問題としては、希望サイドには全方位リベラル路線以外にはほぼ選択肢がない状況である。

おそらく全方位にするとご本人とか側近の政治信条とかとはずれてくるので、その辺をどう調整するかという問題が生じる。この辺りは報道を見る限りでは随分とぶれてきているようであるし(党綱領に反して、小池氏周辺はイデオロギー重視を鮮明に打ち出しているようにすら感じられる)、あまり統一感のあるメディア戦略とは言えない。

結局、金と組織を握っているのは旧民進党=前原サイドなので当事者間の直接交渉になれば前原のほうが強い。極右系・反リベラル系の小池発言がチラホラ漏れてくるのは、(金と組織を盾にとって旧民進党系に主導権を握られたくないので)、小池サイドが意図的に流してる世論操作という可能性も十分にある。

他方で、ここでリベラル勢を包摂できないようだと保守票の食い合いになるので、とくに地方では絶望的な状況となる(結局自公には勝てない)。また、民進勢全員を受け入れることはしないと言っても県連レベルの組織や連合にそっぽ向かれたんじゃ自公には勝てないから、あれは実はポーズで事実上受け入れざるを得ない(あるいは選挙情勢によって左右する)というくらいには不安定な要素が強い。

また、リベラル側から見ると、希望と一緒にやるリベラルと共産と一緒にやるリベラルに分かれるだけで、リベラル勢力自体は残存するのではないだろうか。細川内閣における社民勢力のような残り方かもしれない。そもそも希望の小池体制もいつまで続くかわからない。その辺りを勘案すると、選挙後協調関係が瓦解するとしても、自公政権を一回終わらせることに価値があるから今回は小池に乗っとくか!?という民進党幹部周辺の思惑はわからなくはない。それなりに合理的。

この民進党orリベラル側からみた「希望作戦」は、①自公を過半数割れに追い込む、②希望の主導権を超保守勢に握られないようにする、③希望の超保守勢が自公に取り込まれない程度に彼らにも利益配分する、という条件を同時に満たす必要があって、①に対しては合理的でも②③を同時に満たすのが難しい。

したがって、自公の脅威を強調して団結を呼びかけつつ、重要選挙区や重要ポストは旧民進系でおさえるということをしなければならない…これが結構難しいだろう予想される。したがって、この「希望作戦」自体は、効用は大きいが(成功する)確率はかなり低い策のように思うので、結果だけ見たら4野党選挙協力のほうが良かったという可能性はあるのかもしれない。
 


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