大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

野地秩嘉『イベリコ豚を買いに』(小学館)

2015.06.11

イベリコ豚を買いに
ノン・フィクション。一般書です。ここで学術書以外を紹介するのは初めてではないかと思います。徹底した品質管理により生産されるスペインのイベリコ豚。料理にそもそも疎いのと、普段こういう軽いタッチの本を殆ど読まないこともあって、発見の連続、初めて聞くような話ばかりでとても楽しめました。ちなみに本書を開くと、豚や料理の写真がふんだんに使われていて、見てるだけで食欲が湧いてきます(笑)。

なかでも印象に残ってる話がふたつ。ひとつは食文化の違い。スペイン人(これは欧米人と言うべきなのかもしれません…)は基本的に肉を焼いて食べることしかしないそうです。それに比べると、日本人の肉料理は実に多様。豚カツ、生姜焼き、焼きそばの具、洋食や中華の具…。豚肉の用途は本当にいろいろあります。日本人が特殊なのかもしれませんが、食事というものに驚くほどこだわりがない、自由で寛容なのです。そういうことに改めて思いを馳せることができました。この本を読まなかったら、つまり、毎日毎日妻が作ってくれる料理だけを頂いていたら、このことには気が付けなかったかもしれません(笑)。

もうひとつは、仕事について。筆者はスティーブ・ジョブズを引きながらこんなことを言います。「仕事の本質とはアイデアや新製品を考えつくことではない。アイデアを製品にするために日々行う地味な作業とそれに関わる関係者の連絡、打ち合わせである」(198頁)。打ち合わせとは、連絡と結果の確認、そして参加者の情報レベルを統一させることにある、と。

仕事とは打ち合わせなのです。おそらく、これほどシンプルで分かりやすい原則はないでしょう。このことは研究していても日々感じます。共同研究者とのやり取り、事務とのやり取り、出版社とのやり取り。その他様々な(地味な!)諸手続き。こうしたことをすっ飛ばしてアイデアだけ思いついて、それだけで仕事ができることは殆どない。これは教育でもそう。学生さんの理解度(何がどこまで分かっているのか)は常に意識しなければならないし、ゼミのような少人数授業ならば尚更そうで、情報レベルの共有は欠かせないものです。そのことに改めて気付かされました。

遠い世界の新鮮なストーリーでありながら、身近な生活や仕事にも示唆を与えてくれそうな、一粒で何度も美味しい本でした。


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