大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

宮本議員の質問(6月19日)

2015.07.2

20150702
再び共産党・宮本徹議員の質問です。宮本議員は、6月19に再び質問に立ちます。その際に、「他国に対する武力攻撃で、自国の存立が脅かされたようなことがあるのか?」、つまり存立危機事態に当たるような例が他国にあるのか?と質問します。政府側は調べて回答しますと答弁し、その回答をするのがこの日の委員会です。岸田外相の答えは次の通りです。

岸田外相:
自国の、国民の生命や暮らしを守るために必要な武力の行使として、新三要件に該当する行為につきましては憲法上認められるべきではないか、こういった議論をお願いをしております。その中の一部が、限定された集団的自衛権として説明される部分があるわけですが、国際的に認められている集団的自衛権のうちの一部限定的なものが、わが国の国民の生命や暮らしを守るために必要なのではないか、こういった議論をお願いしているわけですが、こうした議論でありますので、国際的な集団的自衛権の定義ですとか評価に比べまして、わが国は極めて限定的に、厳格な基準を設けて、限定的に認めるべきではないか、こういった議論になります。よって、今のご質問におきまして、過去の例において、国際的に類を見ない厳格な基準に基づいて、その厳格な基準に基づいて具体的な情報収集をしているわけではありませんので、これを当てはめることは大変困難なものがあります。過去の例を見ましても、集団的自衛権の行使につきましては、国際法上、国連に対して報告するとされています。この報告の例を見ましても、わが国が適用しているような厳格な基準に基づいて報告を行っている国、これはないわけであります。自国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある、こうした厳密な限定された理由を以て、こうした国連に報告している事例は存在しないと認識をしています。
宮本議員:
いまの質問は調べたけどもなかったと、存立危機事態にあたるような例は世界には無かったと、いうことでよろしいんですか?
岸田外相:
わが国は国際的にも類を見ない厳格な基準を設けて、その条件の下に限定的な集団的自衛権が国民の生命や暮らしを守るために必要ではないか、こういった議論をお願いしています。このような厳格な限定されたかたちで集団的自衛権を考えている国は他国にはありません。他国の過去の例を見ましても、これだけ厳格なかたちで集団的自衛権を考えて、行使をしている、こういった例は存在をしない、そしてわが国としましても、こうした厳格なかたちで、その時々情報収集したわけではありませんので、こうした例を挙げることは大変困難であると、こういったご説明をさせていただいております。

長い答弁ですが、要点は①わが国は国際的に例を見ないほどの厳密、厳格な条件を集団的自衛権の行使に課しいている。②そのような厳密、厳格な基準で集団的自衛権を行使している国はない、③また平素から、そのような厳密、厳格な基準に基づいて情報収集を行っているわけではないので、具体的事例を挙げることは困難、ということになります。

ちなみに、個別的・集団的問わず、自衛権の行使は国連安保理に届け出をしなければなりません。過去に集団的自衛権の行使で国連安保理に報告されたケースは14件あります。しかしながら、日本のように「限定的」な集団的自衛権の行使を定めている国は存在しないので、限定的な集団的自衛権の行使の条件である「存立危機事態」にあてはまるケースは国際的には存在しないという答弁になります。

ここは少し分かりにくいので補足すると、「限定的」な集団的自衛権の行使に関して、政府は所謂「新三要件」を援用しています。新三要件とは以下です。

  1. 我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
  2. これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
  3. 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

言い換えると、これは「他国に対する攻撃によって自国の存立が脅かされるか否か」という事態認定の論点と、「それに対してどのようなかたちで集団的自衛権を行使するのか」という武力行使のの程度という論点に分かれますが、前者については1と2が、後者については3が対応しています。岸田外相の答弁は要するに、このような厳格、厳密な基準は他国は用いていないので、したがってこのような基準で定義するところの存立危機事態は世界的にも例がない、ということになります。宮本議員の本来の質問は、今回の法案で厳格に定義する「存立危機事態」についてというよりも、もっとフラットな意味で所謂存立危機事態(他国への攻撃で自国の存立が脅かされる事態)、つまり新三要件で言うところの1の事例は存在するのか?と訊いているようにも思いますが、まあそこはさておきまして…岸田外相は上記のように回答をしました。

さらに宮本議員の質問は続きます。

宮本議員:
いまの話を聞くと、そういう角度で情報収集やってきてないので大変だ大変だという話で、調べるっていうのが前回の答弁だったわけじゃないですか。国連に報告ないってことは、いままで14の事例、国連に報告された集団的自衛権の事例ありますけれども、その中ではない、ということですよね。その14ヶ国については、14件については。
岸田外相:
先ほど申し上げましたように、集団的自衛権の行使につきましては、国連に報告がされます。そうした報告例が14あります。その14の例を見る限り、わが国のように厳格な厳密な条件を付けて集団的自衛権を行使している事例はないということを申し上げております。
宮本議員:
ですからね、私が訊いているのはですね、実際存立危機事態っていう例があったのかっていうところを訊いてるわけですよ。国連には報告ないですよ。そういう形でのね。存立危機事態の例があるのかっていうと、そういう角度での報告はないっていうのははっきりしてるわけですよね。そういう概念がないっていうんじゃなくて、存立危機事態が起きうるから今回の法案皆さん出してるわけでしょ。だけども存立危機事態の例はいままで起きたことあるんですかっていうことを訊いてるわけですよ、そういう立法事実がないんだったら、この法案出す資格ないですよ。世界のどこ探しても存立危機事態なんて起きたことないんじゃないですか。結局、集団的自衛権行使に道を開くために、頭の中で空想的観念を作り上げて、存立危機事態なんてのをやってるだけじゃないですか。こんなことでですね、憲法の解釈180度変えるなんて許されないですよ。法案撤回してください。

一連の論理展開はとてもシンプルかつ明晰なものではないかと思います。「存立危機事態にあたるような例(他国に攻撃されて自国の存立が脅かされるケース)はあるのか?」と質問して、「存立危機事態のような厳格な定義を他国は採用していないので、そのような例は確認できない」という答えが返ってきます。そのうえで、そのような存立危機事態がないのであれば、そもそもこの法案は必要ないのではないか?存在しないような事態を想定して法案作る必要がどこになるのか?マイルドに言えばこういうことになるでしょうか。

この論理は相手に逃げ道を与えないとても秀逸なものではないでしょうか。政府は従来より、今回の法案における集団的自衛権の行使は「国際法上の集団的自衛権の概念」とは異なり、憲法の制約の中での「限定的な集団的自衛権の行使」であると言ってきました。しかし、そのような例が他にあるのか?と訊かれればそのように集団的自衛権を限定行使している国はありませんから、そのような例はないと答えざるをえません。そうすると当然、(そのような例は過去にはないので)本当に立法事実あるんですか?法案の必要性・合理性を支えるような社会的事実あるんですか?ということになります。じゃあ逆に、「諸外国に類似の例はあります」というとどうなるか?そうすると、それはやはり集団的自衛権の行使は、(他国が行っているような)従来の国際法の集団的自衛権の行使であって、限定行使と言っているが実態は変わらないのではないかということになってしまいます。つまり、「他国に例はあるか?」と訊かれて、Yesと言えば(他国と同様の)限定的ではない集団的自衛権の行使ではないか!と言われ、NOと言えばそもそも立法事実がないではないか!と言われてしまいます。非常に巧妙な質問戦略と言えるでしょう。

岸田外相が新三要件を分けて考えて、1にあたるような例は複数確認されるが(これを見つけること自体はそんなに難しくない気がしますが…)、2,3のような厳密な運用をしている国は他国には存在しない(それだけ厳密な運用をこの法案では企図している)と言えば、論理的には整合的のような気もするのですが、そういう答弁はありませんでした。

と、二回に分けて宮本議員の質問を取り上げましたが、今回の法案の立法事実にあたる「安全保障環境の変化」にしても「存立危機事態(が起こりうること)」にしても、これを説明すること自体はそんなに困難ではないと思うのですが、政府側から説得的な答弁は有りませんでした。

 


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