2015.06.12
元内閣法制局長官・阪田雅裕氏へのインタビュー。内閣法制局の組織、人事を概略しながら、憲法9条解釈、自衛隊の海外派遣、集団的自衛権、立憲主義など、安全保障を中心に取り上げています。緊喫の課題について非常に明晰に解説、論じられているという印象で、分かりやすくとても丁寧です。
とりわけ個人的に興味深かったのは、一般に混同されがちである「集団的安全保障」と「集団的自衛権」を分かりやすく図解し(113頁)、その上で、(現行法制の下で集団的自衛権の行使が許されない(157-8頁)のはもちろんですが、)国連の集団的安全保障への参加は可能なのか?という議論を非常に明晰に展開しています。国連の集団的安全保障、たとえば国連軍を組織するような場合、それは全加盟国の義務ではなく、参加するか否かは加盟国の任意の判断に委ねられることになります。そうであるならば、すなわち自主的な判断に基づく参加であれば、それは「国権の発動」であり、9条に反しているというわけです。
これについては1998年の政府答弁もあり、国連の行う活動のうち、「武力の行使または武力による威嚇に当たる行為」については明確に「許されない」としています。
秋山内閣法制局第一部長:したがいまして、我が国としまして、最高法規であります憲法に反しない範囲で、憲法九十八条第二項に従いまして国連憲章上の責務を果たしていくということになりますが、その場合、もとより集団的安全保障あるいはPKOにかかわりますいろいろな行動のうち、憲法九条によって禁じられている武力の行使または武力による威嚇に当たる行為につきましては、我が国としてこれを行うことが許されないというふうに考えているわけでございます。(衆議院安全保障委員会・平成10年5月14日)
このこととも関連しますが、内閣法制局と集団的自衛権の解釈史については南野森「集団的自衛権と内閣法制局ーー禁じ手を用いすぎではないか」」が詳しく論じています。
もうひとつ興味深かったのはシーレーン―海上交通路の防衛―の話です。ここでは平時において商船等に攻撃が加えられる、公海上の通航が妨害されるという状況と、有事におけるシーレーンの防衛という状況を分けて論じています(146-151頁)。
基本的な考え方として、「武力行使」とは領土・領海・領空に攻撃を加えられなければ成り立たないというものではなく、さりとて公海上の商船への攻撃一般を対象にすると無限定に拡がってしまう怖れもあるので慎重な判断が必要であるとしています。状況次第では前者を武力攻撃と判断することもありうるし、後者のようにひとたび有事となれば、シーレーンの防衛も(個別的自衛権の範囲で)可能かつ必要になるというわけです。このあたりは一概に言うことは難しいのですが、要は現在国会で議論されているように集団的自衛権を行使せずとも、シーレーンについては個別的自衛権(すなわち現行法制)の枠内で十分に対応可能であるということです。この指摘はとても重要なのではないかと思います。
というように、安全保障に関わる法制度、法解釈に即して重要な議論が網羅されており、盛り沢山の一冊です。文体も平易で読み易く、安全保障法制の基本的な枠組みと何が問題なっているのかを理解する上では、とても良い本だと思います。