大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

国際政治学の入門書

2015.05.20

20150520-1

先日、askで国際政治学の入門書についての質問があったので、その回答をこちらでも紹介しておきます。

国際政治学の門外漢に「国際政治学の最初の一歩になるような本を紹介して」と言われたら大賀先生なら何を紹介しますか?

一概には言えませんが、教科書・専門書の類以外で手軽に読めるものとしては、以下のようなものがあります。ひとつの事象を多元的な観点から考察するという国際政治学の最も重要な問題意識に触れたければ①②。国際政治学がこれまで何を対象とし、どんな議論をしてきたのかを知りたければ③④⑤。所謂国際政治学の書籍ではありませんが、国際政治学の輪郭が形づくられてきた20世紀前半に、とくに戦争と平和についてどんな議論がなされてきたのか、あるいは国際社会の中で法と政治の互いに交錯する部分をどのように考えるのか?という点を掘り下げて考えたければ⑥⑦⑧。国際政治学が制度的に形成されていく戦間期から冷戦期にかけての問題意識という意味では⑨⑩⑪がお勧めです。

① E.H.カ―『危機の二十年-理想と現実』(岩波文庫)

② 中江兆民『三酔人経綸問答』(岩波文庫)

③ 高坂正尭『国際政治-恐怖と希望』(中公新書)

④ 中西寛『国際政治とは何か-地球社会における人間と秩序』(中公新書)

⑤ 中嶋嶺雄『国際関係論-同時代史への羅針盤』(中公新書)

⑥ 筒井若水『違法の戦争、合法の戦争-国際法ではどう考えるか?』(朝日選書)

⑦ 山室信一『憲法9条の思想水脈』(朝日選書)

⑧ ケルゼン『法と国家』(UP選書)

⑨ ニコルソン『外交』(UP選書)

⑩ モーゲンソー『国際政治(上)(中)(下)-権力と平和』(岩波文庫)

⑪ ケナン『アメリカ外交50年』(岩波現代文庫)

[追記]所謂、好みの問題と水準の問題もあって、この手の質問に答えるのは難しいのですが、差し当たりの入門書として考えるとこの辺りのラインナップになるのかなと思います。端的に好き嫌いとか向かっていくベクトル(イデオロギーというと強すぎるのでこういう言い方になりますが…)で考えると、かなり趣向が異なるのかなとも思いますが、国際政治学というテーマで想定されうる論点や問題の網羅性という意味では、この辺りに落ち着くのではないかと思っています。大学教員の実感としては、易しすぎず難しすぎず知的刺激を喚起しつつ「1年生にお薦めできる本」ということになるのかもしれません。逆に教科書的な本だと、これも意見は分かれますが、メイヨール『世界政治-進歩と限界』(勁草書房)ナイ『国際紛争-理論と歴史』(有斐閣)等があります。ある程度知識を吸収した段階で、国際政治学の問題意識や知見を垣間見るということでいうと、武者小路公秀『国際社会科学講義-文明間対話の作法』(国際書院)大沼保昭『国際社会における法と力』(日本評論社)なども良いのではないかと思います。


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