大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

国際政治学と異分野融合

2015.04.25

2015-04-23_11h08_24

先日、学術研究推進支援機構(URA機構)のニュースレターにインタビュー記事が掲載されました。URAというのはUniversity Research Administratorの略で、大学において研究資金の調達や管理、マネジメントなどに従事する人材のことです。九州大学ではURA機構というものを設置して、研究資金の獲得支援や共同研究のサポートなどの業務を行っています。URAでは定期的にニュースレターを発行していて、このニュースレターの中にBUNKEIスポットライトというコーナーがあります。文系研究者の研究内容などを紹介するという趣旨のようです。先日、このURAの方からインタビューを受けその時の内容が今回のニュースレターに掲載されました。

http://ura.kyushu-u.ac.jp/researches/view.php?C_Code=162&S_Category=8

インタビュアーが理系の方だったこともあって、最近関心を持っている「国際政治学と異分野融合」というテーマについて、国際政治について専門家でない方でもご理解いただけるように基本的なところからお話しをさせていただきました。インタビューの主たる部分はニュースレターに掲載されているわけですが、ここでは当日お話しさせていただいた内容のうち、インタビュー記事では触れられなかった部分について書きたいと思います。

まず、国際政治学と国際関係論という話があって、政治学の中に国際政治を位置づける国際政治学という枠組みがあります。国際政治学の中では外交や国際機構など国家主体を中心とした活動が中心的なテーマとなります。それに対して国際関係論という枠組みがあって、これは国際法学や国際経済学、国際社会学など、要は国際社会を対象とする研究の総称です。この研究枠組みでは国家だけではなく、多国籍企業や市民団体、NGOなど所謂「非国家主体」も研究対象となりえます。

実は今回のインタビューは3月に参加したURAの異分野融合ワークショップのときに依頼されたものなのですが、その辺の文脈も踏まえて、国際政治学/国際関係論と異分野融合研究という点からお話しをさせていただいて、まず政治学や国際政治学自体が周辺領域からの理論的知見を取り入れてくるという「輸入学問」の側面が強いこと、また国際関係論については、国際関係論自体が従来の人文・社会科学の知見を統合した異分野融合研究の側面が非常に強いというお話しをしました。

その上で、とくに最近の国際政治学の動向なども踏まえながら、国際政治学/国際関係論における異分野融合研究の要因として考えられるものを三点挙げました。第一はグローバル化、トランス=ナショナル化という要因。企業や市民社会の影響力が増大し、国境を越えた活動が活発になればなるほど、「国家中心の政治学」では捉えきれない事例が頻発するようになります。そこで―国際政治経済学とか国際政治社会学とかはまさにそういう研究のあり方の雛形ですが―経済学や社会学などとの異分野融合が促進されていきます。

第二に環境問題のグローバル化という要因があります。かつては国内の公害問題程度の認識に過ぎなかった環境問題が、現在では「地球」環境問題として認識されるようになってきました。これに付随して、資源ナショナリズムなどの問題も出てきています。ところがこの環境問題というのは本来、人文社会科学の知見だけでは解決できない分野ですから自然科学の研究者との協働が求められます。また、社会への浸透やフィードバックということも当然に要請されますから、その意味では文理双方の知見を融合させることの必要性と重要性が近年さらに高まっていると考えられます。

第三に情報化という問題があります。これがインタビュー記事のほうに掲載された本題ということにもなるのですが、従来の人文社会科学、とくに質的研究の分野においては、限定的な比較的少数のテクストを分析する、解釈する、意味づけを行うという研究が想定されていたのに対して、研究対象の方は量的にどんどん拡大していきます。世界が情報化社会になっていくということは、研究面で見れば研究対象が物凄いスピードで拡大・拡散・複雑化していくということですから、従来の質的研究では捉えきれなくなっていきます。とはいえ、量的研究では細かいコンテクストまでは分析できませんから、大量の情報を統制する量的分析と個々のコンテクストから分析的な考察を行う質的研究の二つの視角の融合が求められるようになります。そうした研究の方法論の融合という点で、最近私が着目しているのがテキストマイニング、自然言語処理の分野で、政治的なテクストを内容分析・言説分析するという質的研究とテキストマイニングのような量的研究を組み合わせて用いることで研究の可視化や分析の精度の向上が期待されます。

というようなことを1時間半くらいお話しさせていただきました。質疑応答の中で自分の研究を振り返ったり、その中で課題を新たに発見したりということも多く、自分の研究を見つめなおすとても良い機会となりました。

 


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