大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

鈴木早苗『合意形成モデルとしてのASEAN』(東京大学出版会、2014年)

2015.04.30

合意形成モデルとしてのASEAN: 国際政治における議長国制度
先月刊行された日本国際政治学会編『国際政治』第180号(国際政治研究の先端8)で書評をさせていただきました。東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国制度についての研究書です。議長国制度という着眼点はとても面白いと思います。

ASEANにはASEAN方式(ASEAN way)と呼ばれるコンセンサス重視の意思決定方式があります。また意思決定についての法的・制度的枠組みは必ずしも整備されているわけではなく、不文律なルール形成が意思決定に大きな影響を与えています。そこで本書が着眼するのが「議長国制度」です。つまり、加盟国が一定のルールの下で議長を担当し、議事運営や利害調整を行うという「議長国制度」を考察することで、この議長国制度が加盟国間の利害調整や議事の帰結に与える影響を評価・検証し、それを通じてASEANの意思決定メカニズムを理論化しようと試みています。

国際政治学者が国際レジーム(international regimes)を対象とする場合には、明確な原則・規範・ルールなどを備えた公式の国際制度(international institutions)を研究する場合が多く、ASEANの議長国制度のような非公式レジームはなかなか研究されることがありません。本書ではASEANの議事運営や意思決定過程のなかでの議長国の「裁量」に焦点をあて、意思決定に議長国の意向がどの程度反映されているのかを、理論モデルを用いて説明しています。資料的制約のある中で、事例分析と理論検証を行い、議長国制度についての理論モデルを構築しています。理論的妥当性のさらなる検討や適用事例の拡大など今後の展開が期待されます。従来のレジーム論の間隙を突く研究書と言えそうです。


コメントを残す

Required:

Required:

Required: