大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ

2017.07.24

学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ

「学術研究の大型プロジェクトの推進に関する基本構想ロードマップ -ロードマップ2017-」(以下「ロードマップ」という)の策定に関する意見募集(パブリックコメント)に意見を提出した。主として、大型プロジェクト推進の意義と評価基準が整合的ではない点、現行の評価基準では人文・社会科学研究が選定され難い点、社会や国民とのコミュニケーションの強化方策に具体性が欠けている点などを指摘した。参考までにこちらにも転載しておく(ロードマップの詳細については上記リンクのパブコメ・ページを参照)。

1.学術研究の大型プロジェクト推進の意義について、どのように考えますか。

  • ・我が国の科学研究において、国際的な研究ネットワークの構築が遅々として進まず、若手研究者の研究環境の整備も十分ではなく、結果として科学技術イノベーションの基盤的な力が弱まっていることは否定しがたい事実である。したがって、大型プロジェクトの推進を通じて、世界に開かれた魅力ある研究環境を構築することの意義は理解できる。
  • ・他方で、データベース型やネットワーク型の大規模研究を推進することで、それがどの程度各学術分野の研究に貢献するのか、またどの程度広い範囲をカバーし、どの程度の波及効果を生み出すことを目標とするのかがやや曖昧である。また、関連する学術分野の広範性や波及効果の質と量を評価するための評価システムの確立が必要である(広範性や波及効果は、「広ければよい」「波及してればよい」という単純なものではないと思うので、その効果を測定する評価基準が必要である)。
  • ・ 大型プロジェクトの推進についての政策的な位置づけが曖昧であるので、科学技術政策上明確に位置付ける必要がある。

2.学術研究の大型プロジェクト推進の基本的な考え方(大型プロジェクトの基本的性格及び実施主体)について、どのように考えますか。

  • ・大型プロジェクトの推進が我が国の学術研究全体の基盤の強化に資するという点は理解できる。
  • ・「最先端の技術や知識を集約して人類未踏の研究課題に挑み、世界の学術研究を先導する画期的な成果を期するプロジェクト」の意義は理解できるが、この意義が既存の評価システムのなかで反映されていないのではないか。「緊急性」「戦略性」「学術的意義」「社会的意義」という評価基準は既存の成果を既存の枠組みで評価するものであり、イノベーティブな研究課題の評価には馴染まないのではないかと懸念される。
  • ・共同利用・共同研究体制により推進されることが適当という点は妥当であると考える。

3.学術研究の大型プロジェクトの着実な推進に向けた社会や国民とのコミュニケーションの強化方策についてどのように考えますか。

  • ・ホームページの開設や市民講座などが「双方向コミュニケーション」として機能しているかは疑わしい。
  • ・科学コミュニケーションが必要なことは認めるが、現状では研究者による科学コミュニケーション活動は(研究者の業績として)評価されにくいので、具体的・実質的な評価システムを確立する必要がある。
  • ・「双方向コミュニケーションに関する専門的知識を有する専任教員や科学コミュニケーター、事務職員の配置又は専門部署の整備など、支援体制の充実を図る」という施策の意義は理解できるが、具体的にどのような活動を行い、どのような基準・観点で評価を行うのか明確な方向付けが欲しい。
  • ・評価の観点と具体的な視点が「国民からの支持」「地域社会との信頼関係」など曖昧な基準が目立つ。
  • ・個々のプロジェクトにおいて、ステークホルダーは誰で、当該ステークホルダーとどのような協働関係を確立するのか(その場合の当該ステークホルダーのメリットなど)といった具体的な目標設定が必要である。

4.「学術研究の大型プロジェクトの推進方策の改善の方向性」(平成29年3月30日科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会)を受けて策定される予定の「ロードマップ2017」(案)の内容を踏まえ、今後のロードマップの策定に向けて求められることについてどのように考えますか。

  • ・全体として、人文・社会科学の存在感が薄い。データベース型やネットワーク型の大規模研究の推進においても人文・社会科学の知見を活かすべきであるが、現行の基準ではそうしたプロジェクトが選定される可能性は低い。
  • ・同様に、文理融合研究の視点も弱い。社会的課題の克服に向けて自然科学と社会科学が連携するような研究プロジェクトを選定すべきであるし、そういったプロジェクトが選定されやすい評価基準を盛り込むべきである。
  • ・評価基準のうち「緊急性」・「戦略性」「学術的意義」「社会定期意義」という観点ではすでに成果をあげている分野が有利であり、こうした評価基準では人文・社会科学研究や文理融合型研究が選定されにくいという構造上の問題がある。

5.上記の他、お気付きの点がありましたら御意見をお寄せください。

  • ・評価基準のなかに分野間の協働などイノベーションを評価する観点が乏しく、他分野への波及効果(その質と量)や新しい着想、分野横断型・分野融合型の着想を積極的に評価するための基準作りが必要である。

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