2015.04.10
因果的推論を中心とした政治分析の方法論についての入門書です。方法論、それも政治学の方法論の教科書としては G.キング=R.コヘイン=S.ヴァーバ(真渕勝訳)『社会科学のリサーチ・デザイン』(勁草書房)やS.ヴァン・エヴェラ(野口和彦・渡辺紫乃訳)『政治学のリサーチ・メソッド』(勁草書房)が有名だが、両書とも訳書で、日本人が日本語で書いた政治学の体系だった方法論のテキストというのはこれまではあまりありませんでした。
本書は「説明」とは何か、「原因を明らかにする」とはどのような行為であるのかという基本的な前提から始まって、反証可能性や一般理論の意義、相関関係と因果関係、選択バイアスなど政治分析には欠かせない方法論の諸要素を非常に平易な文体で説明しています。また定量的研究と定性的研究の相違を意識しながら、両者の着眼点と研究手法の違いを説明しています(比較事例研究と単一事例研究の違い、差異法や合意法などの比較研究のアプローチの違いも詳細に述べられています)。定量的研究と定性的研究の相違やそれに伴う論争についてはH.ブレイディ=D.コリアー(泉川泰博・宮下明聡訳)『社会科学の方法論争―多様な分析道具と共通の基準』(勁草書房)、C.エルマン=M.エルマン(渡辺昭夫監訳)『国際関係研究へのアプローチ―歴史学と政治学の対話』(東京大学出版会)などが詳しいですが、本書でも変数に着目する定量的研究とプロセスやコンテクストに着目する定性的研究の相違が簡潔にわかりやすく示されています。平易な文体で体系だった説明がなされていますので、学部生や大学院生向けの入門書、とくに原書で方法論の教科書を読む前の入門書として最適ではないかと思います。