大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

宮本議員の質問(6月10日)

2015.06.29

20150629衆議院の議事録がアップされるのを待っていたのですが、なかなか更新されないのでこちらに書くことにしました。6月10の衆院・平和安全特別委員会で共産党の宮本徹議員が、今回の安保法制の議論で頻出する「安全保障環境の変化」の定義について非常に秀逸な質疑をされていました。

どういうことかというと、安保法制は従来の個別的自衛権では対処不可能な事態があるという論理ですから、どのような状況変化があり集団的自衛権の行使が必要なのかということを説明する必要があります。したがって、ここで「安全保障環境の変化」とはどのようなものであるのかが争点となります(これは6月15)のブログでも部分的に言及しています)。

では政府は「安全保障環境の変化」についてどのような説明をしているか。以下、6月10日の宮本議員と中谷防衛大臣との間の質疑の抜粋です。

宮本議員:
何を以て安全保障環境の根本的な変容と言っているのか?またそれはいつからか?
中谷大臣:
冷戦の終焉、グローバルなパワーバランスの変化、東アジア・中東・ヨーロッパでの不安定な要因。具体的には大量破壊兵器、弾道ミサイル等の軍事技術の高度化・拡散化。北朝鮮のノドンミサイル、核開発。国際テロの脅威。海洋・宇宙・サイバー空間におけるリスクの深刻化。脅威が世界のどの地域でも発生し、我が国に直接的な影響を及ぼしうる状況。日本の安全をしっかり守るためにどう考えるのか。また日本が国際社会のなかで一層大きな役割を果たすために、日米同盟の強化、域内外のパートナーとの信頼および協力関係も深めなければならない。
宮本議員:
ソ連があった時代はもっとたくさんのミサイルを向けられていたのではないか?何を以て根本的変容か?そしていつからか?
中谷大臣:
インターネットや人工衛星などの科学技術の進歩・発展。あらゆる事態に切れ目のない対応が必要。いかなる事態が発生しても国を守れるような法律を作る。
宮本議員:
インターネットや人工衛星が根本的変容の基準なのか?いつから?
中谷大臣:
我が国を取り巻く安全保障環境の変容。とくに冷戦後、グローバルなパワーバランスの変化、技術革新の急速な進展、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、拡散、国際テロなどの脅威、アジア太平洋の緊張関係。脅威が世界野どの地域でも発生し、我が国の安全保障に直接的な脅威を及ぼしうる状況。近年ではさらに海洋・宇宙・サイバー空間における自由なアクセスおよびその活用を妨げるリスクが拡散・深刻化。どの国も一国のみで平和を守ることはできない…。国際社会もまた我が国が国力に相応しいかたちで積極的にその役割を果たすことを期待している。
宮本議員:
全然質問に答えてない。根本的変容とはなんなのか?いつからなのか?これで憲法解釈変えよう、根拠にしようというのは、こんなおかしな話はない。

この答弁は非常に質が低いのですが、結局、具体的にどのような脅威があり、それに対処するためにはどの程度の物的・人的資源が必要で、どういった対応が必要十分であるのかという点にまったく答えていません。また、これらの脅威に対処するためになぜ個別的自衛権ではなく集団的自衛権なのかという説明もありません。

言葉を変えて繰り返し論じられる「一国のみで平和を守ることはできない」「国際社会も日本の貢献に期待している」というのも奇妙な言説で、おそらくこうした命題自体に反対する人は少ないでしょう。しかし、問題なのはこうした言説が「だから日本は軍事部門で貢献しなければならない」という文脈で用いられることにあって、貢献の手段は無数にあるにも拘わらず、なぜか軍事的手段による貢献が自明視されています。

実は、脅威は拡散している/従来の手段でこれに対抗することは不可能/いま行動を起こさなければ、リスクが高まりすべてが手遅れになる、という一連の論理は2002年の米国国家安全保障戦略(ブッシュ・ドクトリン)の理屈とまったく同じなのです。

  • こうした脅威に打ち勝つためには、われわれは持てる手段をすべて使わなければならない。それは、軍事力、国土防衛の強化、法執行、諜報・情報、そしてテロ資金を断つための活発な取り組みである。世界各地で活動するテロリストとの戦いは、世界的な取り組みであり、いつまで続くのか不明である(序文)。
  • われわれは、差し迫った脅威の概念を、今日の敵の能力と目的に適応させなければならない。無法国家やテロリストは、従来の手段で攻撃を仕掛けてくるつもりではない。そのような攻撃は失敗に終わることを知っているからである(第5章)。
  • 脅威が大きいほど、行動を取らないことのリスクは大きく、また敵の攻撃の時間と場所が不確かであっても、自衛のために先制攻撃を行う論拠が強まる。敵によるそのような敵対行為を未然に防ぐために、米国は必要ならば先制的に行動する(第5章)。

「脅威が大きいほど、行動を取らないことのリスクは大きく」、「自衛のために先制攻撃を行う論拠が強まる」。テロリストはどんな手段で攻撃を仕掛けてくるかわからない、だからこちらから先制攻撃で敵を叩き潰さなければならないのだ!というロジックです。安保法制の場合、もちろんその行動規範、手段や規模はブッシュ・ドクトリンほど過激ではありませんが、問題意識はかなり酷似しているのではないかと考えられます。

宮本議員の質疑に立ち返ると、結局「安全保障環境の変化」については、政府側からの明確な答弁はありませんでした。さらに宮本議員は続けて、「他国に対する武力攻撃で、自国の存立が脅かされたようなことがあるのか?」と質問します。そうするとまた「そういうことが無いように日々備えをしておくことが安全保障です」というあさっての答え…。そして、また速記が止まる…。結局、「しっかり調べて答える」という回答で、この問題は6月19日に引き続き議論されます。

 


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