大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

園田茂人『不平等国家中国』(中公新書、2008年)

2015.07.7

不平等国家 中国―自己否定した社会主義のゆくえ (中公新書)
今更ながら、中国の経済発展には目覚ましいものがあります。7%前後の経済成長率を維持し、世界第2位の国内総生産(GDP)を誇り、いまや中国のGDPは第3位の日本と第4位のドイツを足した総額よりも大きなものとなっています。しかし光があれば陰もあるもので、経済成長の裏では凄まじいほどの貧富の格差が拡大しています。

本書は、そうした「不平等国家・中国」の実態を統計データを豊富に用いながら、詳らかにしたものであると言えます。この間の「平等」についての言説の変遷にはとても興味深いものがあります。まず毛沢東は「階級成分」という疑似的な格差制度をつくり、従来の工業と農業、都市と農村、頭脳労働と肉体労働などの間の格差を失くしていこうとします。格差を通じて格差をなくすという発想です。これに対して鄧小平は「先富論」を提唱します。要は、皆が裕になるためには(皆が同時にではなく)最初に富める者からどんどん豊かになれば良い。そのうえで、最終的に皆が豊かで且つ平等な社会を作れば良いという考えです。結果、中国は躍進的な経済成長を遂げますが、反面国民の間の格差も広がっていきます。前述のように、本書は実に豊富な実証データを元に中国社会における格差の拡大を解明していきます。

そのうえで、筆者は「過去へ進化する社会主義」という命題を提唱しています。簡単に言えば、今日の中国社会は、伝統中国における支配のあり方と似てきているというものです。学歴を重視する世界観はかつての科挙制度に、エリートに社会的資源の独占が許容されるのはかつての士大夫制度に、そのうえで人民の利益を考慮した上でエリートが行動することが想定されていることはかつての道徳の考え方に、それぞれ酷似しているというものです。この辺りの分析は與那覇潤『中国化する日本』と通じるものがあるのかもしれません。中国社会の実態を数字に基づいて解明した、初学者向けの良書です。

 


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