大学院法学研究院 准教授
大賀 哲

安倍・トランプ会談

2016.11.18

安倍・トランプ会談
11月17日、先日の大統領選挙に勝利したトランプ氏と安倍首相がNYのトランプタワーで会談した。午後5時から1時間半の会談。日本の報道を見るときれいに賛否が分かれていて、反対派は「恥さらし」「朝貢」といった具合で散々に批判し、賛成派はすこぶる好評価。安倍首相の行動力を前向きに捉えたものが多い。しかし、これはどうだろうか?安倍首相はトランプ氏が初めて会談する外国首脳だそうだが、一番乗りするあたり朝貢じみた恥さらしなのだろうか?それとも行動力を評価すべきなのだろうか?どちらもやや極端なように思える。

問題はタイミングである。トランプ氏は11月8日に当選したばかり、現在組閣に取り組んでいる。常識的に考えて、多忙だ。組閣が決まって無いのだから基本政策もまだ決まっていないのだろう。そもそもそのような時点で外国の首相と会う必要はないし、会うことのメリットもない。さらに、ロイターによると、トランプの政権移行チームは政権移行の件でも今回の安倍総理との会談の件でも、国務省にコンタクトを取っていないらしい。(国務省とコンタクトとってないので)海外の首脳と会談する際のノウハウがない状態で、彼らは今回の会談に臨むことになるだろうと報道していた。しかも、前日の時点で何時に何処で会うかすら決まっていなかった。案の定、不完全な状態での会談となった。会談は安倍首相、首相の通訳、トランプ氏、娘イヴァンカ氏、マイク・フリン退役中将(国家安全保障担当大統領補佐官に就任予定)と少人数で行われた。

今回の会談は、大統領就任前の大統領選当選者(つまり私人)との会談でありまずもって異例中の異例。かつトランプ側の準備も不十分。トランプ氏側は通訳を出していない。政策担当者も同席しているのはフリン氏のみ。内容はおそらく顔見せ・挨拶程度の話と、したとしても表面的な政策の話(組閣も決まってないのに具体的な話ができるはずがない)。安倍首相から話を持ちかけるとしたら日米安保かTPPであるが、安保について突っ込んだ話を国務長官・国防長官も決まってない段階でするとは思えないし、TPPについては経済担当のアドバイザーが同席していないのだからやはりするはずがない。寧ろ具体的な政策の話をするならば、トランプ氏側もこんな準備不足の軽い状態で会談に臨むはずがない。

そもそも今回の会談は、9月に安倍首相が先方の希望でヒラリー・クリントン氏と会談してしまったこと(結果論で言えばこれは失敗)に対しての埋め合わせという要素が強いので、トランプ氏側の準備不足(手抜き!?)が目立った。トランプ氏からすれば、特段この時期に会談する必要もないのだから致し方ない。せいぜいが顔をつないでおく程度の意味しかない。

というわけで、「恥さらし」というほどではなく顔合わせ程度の意味はあった。ただし、外交儀礼をまるで無視して片側通訳だけで政策担当者も交えずに行った非公式の会談なので、なにか重要な協議が行われた可能性は低いと思う。その意味で、行動力を評価するほどでもないと思う。まあせいぜいマイナスにはならなかった程度の意味合いだろう。

ちなみに安全保障負担ということで言うとニューヨーク・タイムズが面白い記事を書いていて、現在日本に駐留している米軍基地・米軍関連の費用のうち、国防省の負担が55億$で、日本の負担が58億$(基地関係が18億$、その他地域への補償・補助金の類で40億$)である。仮にこれを全額日本が負担することになると1兆円超。今回の非公式会談の内容はわからないが、今後この「負担」について(とくに日本がどこまで負担を拡大するのかということについて)日米で協議することになるだろう。

 


コメントを残す

Required:

Required:

Required: