2015.04.3
冷戦構造の崩壊から始まるポスト冷戦期という時代、とりわけ東欧の社会主義体制の崩壊・ソ連解体から9.11までの10年余は、国際政治において実に変動の多い時代であったと言えます。従来の国際社会の枠組みが大きく変化し、国連などの多国間枠組みが強化され、世界貿易機関(WTO)も設立されます。反面、ルワンダやコソボの紛争、そして2001年には9.11として知られる同時多発テロが起こります。一方で、世界の独裁体制が次々と民主化し、人権や環境問題についての注目も高まっていきますが、他方で戦争やテロの脅威も高まっていきます。
本書はそうした激動の90年代を踏まえて、地球社会における人間と秩序の問題としての国際政治を理論と具体的問題(への実践)という点から再検討しています。前回紹介した細谷雄一『国際秩序 – 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ』(中公新書)を歴史的アプローチからの国際政治学と考えるならば、本書は理論的アプローチからの国際政治学ということになります。
まず国際政治の基本的な構造を主権国家体制・国際共同体・世界市民主義から理解し、それを踏まえて権力政治・国際統治・世界市民意識という3つの国際政治のイメージを提起しています。この枠組みは、所謂リアリズム、リベラリズム、マルクス主義(または構成主義の問題意識)に対応しています。実際に、これらのイメージがせめぎ合う中で国際政治学や国際政治についての議論が形成されていきます。
このように多様な理念や概念の複合体として国際政治を捉えた場合に、拙速に単一の回答を導くのではなく、そこにはどのような問題とジレンマがあり、どのような問題解決が可能で、その実行性と実効性はどの程度あるのかということを検討していく必要があります。国際政治学は国際社会―すなわち、多様な理念を持った国家、地域、社会、集団、個人などから形成される複合体―を対象としています。したがって国際政治学は、多様な問題や価値を比較衡量し、その中で如何に最善の選択肢を導いていくのかという課題解決、問題解決に向けた要請を他の社会科学よりも強く持っていると言えます。
本書もまた例外ではなく、上述のように国際政治学の主要な理論と概念を定義した上で、それを具体的な問題に適用し、安全保障(2章)、政治経済(3章)、価値意識(4章)とい問題をそれぞれの理論的立場から検討しています。つまり、理論や考え方を説明し、その上で、そうした理論を個別具体的な事例に落とし込んでいったときにどのような分析や問題解決が可能であるのかを考察しています。理論と問題解決への適用という意味で、本書は国際政治学が行ってきたこと、行うべきことを見事に概観しており、「国際政治(学)とは何か」ということを実によく示した最良の入門書であると言えます。